学生さん向けのADL評価のポイントの2回目は「更衣動作」を取り上げてみました。食事も毎日ですが、更衣も毎日行うADLの一つですよね。「更衣動作」の評価のポイントや支援の工夫について書いてみます。
いつものことですが、教科書とは少し違う視点でまとめています。学生さんに実習や「学び」に役に立てば幸いです。
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更衣動作の観察・評価すべきポイント
- 更衣しているときの姿勢
- 上着なら座位のバランスと、上肢の動き
- ズボンなら、立位(または座位)のバランスと上肢の動き
大きく分けるとこの3つの過程に分けて評価するほうがわかりやすい。
食事動作と最も異なる点は、立位動作を中心に、体を大きく動かす動作が伴いますので、座位にしろ立位にしろバランスの安定性が必要となるADLであるということです。
車いすを利用している患者さんでも、座位バランスが安定していれば上着の着脱をスムースに行える人は多いですし、手すりなどを利用して立位をとることができる人なら、ズボンの着脱が自立している方もいます。
とくに、ズボンの着脱が自立するということはトイレ動作の自立へと繋がりますので、更衣動作の関わりは重要です。
「トイレが自立したら自宅に戻ります」
っていう方も非常に多いですからね。
1、更衣をしているときの姿勢
- 車いすで更衣をする場合
- ベッド上の端坐位で更衣をする場合
バランスが不安定でも上肢機能が良い場合は、臥位で着替えるような指導をすることもあります。
しかし、多くの場合は座位で着替えることが多い。その場合、背もたれがあったりして周りが囲まれている車いすのほうが座位は安定しますが、背もたれが邪魔になり、着替えにくくなることもあります。
ベッド上端坐位では、周りに動きをさえぎるものがありませんので着替えはしやすいのですが、車いすとは逆に、もたれたりするものがありませんので、安定した座位バランスが必要とされます。
2、上着を着がえるときの座位バランスと、上肢の動き
片麻痺患者さんの場合、上肢の動きで最も難しいのは、やはり麻痺側上肢へ袖を通したり、麻痺側上肢の袖を抜いたりするという事ではないでしょうか。
今まで着ていたような動作では着脱することができませんので、麻痺側の動きに合わせた上肢の動きが必要とされます。
麻痺側の上肢を安定して使うためには、座位バランスが安定する必要があります。バランスが不安定になればなるほど麻痺側上肢の動きは低下してしまいます。
- 車いすで着替える
- ベッド上端坐位で着替える
どちらの場合も、
- 3分~5分程度座り続けられる
- 前方におじぎをするような姿勢をとることができる
- おじぎの姿勢からまた元に戻ることができる
この動作のいずれかに不安定な要素があるようでしたら、介助もしくは監視が必要となります。
食事動作では、車いすからずり落ちて転落するというような危険性は低いのですが、更衣動作はバランスが不安定だと車いすやベッドから転落する危険性があります。その危険を避けるためにはバランスの確認が必要となってきます。
3、ズボンを着換える時の立位(または座位)バランスと上肢の動き
上着は座位のまま着替えることが可能な動作ですが、ズボンの着脱は「お尻を浮かせる」必要があります。その為には、立位をとらないとズボンを脱いだりはいたりすることができません。
(臥位の状態でお尻の部分を脱いだり着たりすることも可能です、そのたびに起き上がったり寝転んだりします。)
そのため、上着の着脱よりも高いバランス能力が必要とされます。
- 立位でつかまるものがなくてもバランスを保てる
- 何かにつかまればバランスを保持できる
- 壁などに持たれていればバランスを保持できる
バランスの程度によって対応の仕方は異なります。
安全のために、立位をとるのはお尻の部分の上げ下ろしだけで、ズボンを足に通したり、足からズボンを抜いたりするときは座位で行う事が一般的です。
更衣動作へのかかわり方へのヒント
更衣は朝起きたときと、就寝前や夕食後に行う事が多いと思います。とくに、朝起きたときの更衣は病棟においては看護師さんが最も手薄な時間帯となります。そのため、時間のかかるような介助をするよりも、全介助でパッパッ済ませたほうが時間の節約になります。
そのことが、良いかどうかはそれぞれの回復期リハビリテーション病棟での看護師や介護職員の人員配置によって左右されますので、このサイトでは白黒つけません。
しかし、更衣動作への協力を病棟のスタッフに依頼するのであれば、病棟業務の大変さも理解して検討する必要があり、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が安易に何でも依頼するというのは好ましくないように思います。
ただ、患者さんの退院に向けて更衣動作、特にズボンの着脱の自立はトイレ動作の自立につながりますので、患者さんの退院に向けての目標に応じて、更衣動作に重点を置いて支援をする必要のある人をピックアップする、動作の一部分だけを援助してもらうなどの手順を踏めば、少ないスタッフ数でも対応できるのではないでしょうか?
1、上着の着脱の課題とかかわり方へのヒント
その患者さんが上着を着ることのできない原因はなんでしょうか?
- 上肢の操作性の問題
- バランス能力の低下の問題
- 手順などの理解の問題
など、原因によって支援の方法というものは変わります。画一的な支援では患者さんの能力は改善しません。
上肢の操作性に問題があれば
- 麻痺側の動きをサポートする、麻痺側上肢機能の改善にアプローチする
- 上着の把持を介助する、握り機能の改善にはアプローチする
- ボタンのみは介助して、そのほかの動作は自力で行ってもらう
など、課題を絞って具体的にアプローチを考えるほうが良いように思います。「更衣動作の介助量の軽減を図る」というような、おおざっぱな課題設定や目標設定では、改善するのは難しいように言思います。
同じようにバランス能力が低下している場合も
- 車いすで行う事でバランス低下を補う
- ベッド端坐位で行うときは転倒しないように見守りで行う
など、その患者さんのバランス保持能力によって支援の方法は異なってきます。
更衣に必要なバランスへのかかわり方は、更衣動作を繰り返し練習すれば改善するというものではありません。
バランス能力が低下しているのであれば、バランスの改善に特化してアプローチを行い、その結果更衣動作が改善すればよいのです。
2、ズボンの着脱の課題とかかわり方へのヒント
上着と同じようにズボンを着脱できない原因を分析することで、その患者さんに必要な支援を行います。すべてを手伝うような画一的な支援が効果的というわけではありません。
立位でのバランスに問題がある患者さんであれば
- お尻を通す部分のみは介助する
- 脱衣は介助で行うが、着衣のみは立位を介助するだけで行う。
というように、必要な支援を選択することが重要となってきます。
上着と同じように なぜズボンの着脱を行えないのかということしっかりと考える必要があります。
- バランスが問題で行えないのか?
- 上肢機能に問題があって行えないのか?
- 下肢の随意性に問題があってできないのか?
問題点によって対応するアプローチは異なってきます。そのあたりの評価をしっかりと行う必要があります。
脳卒中の患者さんへの支援のむずかしさ
理学療法士や作業療法士、言語聴覚士への講義でも常に質問されることですが、
「○○な状態の患者さんにはどのように支援すればよいですか?」とか
「講義の内容が、漠然としてピンポイントではないです」とか
「もっとHow to が知りたいんです」
というようなご意見を講義をすると必ず言われます。骨折患者さんや、脊髄損傷の完全麻痺患者さんなど、ある程度、定型的な症状示す疾患、病態像が同じような疾患の場合は、いわゆる「How to」を指導しやすいのです。
しかしながら、脳卒中という病気は同じ疾患名であっても、その症状がバラバラで、一人一人の患者さんが抱えている問題が異なり、その支援の方法もなかなか固定化したものがないのです。
だから、ここに書いている内容も漠然としたものとなりがちです。(申し訳ありません)
ですので、それぞれのADLの評価のポイントや、評価すべき視点についてはお伝えできるのですが、実際の支援については基本的な事柄を述べることはできますが、具体的なものはその患者さんを見るしかお伝えできないのが現状なのです。
まずは、評価のポイントをしっかりとみるようにしていただいて、問題を把握して、それぞれの支援の方法を探ってみてください。
ADLの評価 更衣動作のこと まとめ
- 姿勢、上肢機能、バランス機能などポイントに分けて評価する
- 出来ない課題の問題点を絞る
- それぞれの問題に対応したアプローチを検討する
- ズボンの着脱は、トイレ動作の自立の第一歩となる
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